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2026/01/30 スタッフブログ

重度化予防ケア研修 レポート② 

重度化予防ケア研修 レポート② 

「夜、ぐっすり眠れるようになった」── 介護の”あたりまえ”を変えたら、お客様の毎日が変わりました

「お母さん、最近よく笑うようになったね」

面会に来られたご家族から、そんな嬉しい言葉をいただくことが増えました。

以前は表情が硬く、どこか緊張した様子だったお客様が、今では穏やかな笑顔を見せてくださる。ご家族がその変化に気づいてくださったとき、スタッフ一同、心から嬉しく思いました。

実は今年度、私たちは介護の”あたりまえ”を見直す大きな挑戦をしています。その取り組みが少しずつ実を結び、お客様の暮らしに目に見える変化が現れ始めているのです。


きっかけは「お客様の身体、本当に楽だろうか?」という疑問

車いすに座っているとき、ベッドで横になっているとき──お客様は本当に楽な姿勢でいられているだろうか?

毎日のケアの中で、ふとそんな疑問が浮かびました。

私たちは「お客様のために」と思って介護をしています。でも、その方法は本当にお客様にとって心地よいものだろうか。「苦しい」「つらい」「もう少しこうしてほしい」──そう言葉にできないお客様の気持ちを、私たちはどれだけ理解できているだろうか。

この疑問と向き合うことから、私たちの挑戦は始まりました。

そして4月、「重度化予防ケア研修」をスタートしたのです。


重度化予防ケアとは?

「重度化予防ケア」とは、お客様の身体機能や生活の質をできる限り維持し、状態の悪化を防ぐためのケアです。

加齢や疾患により、身体の機能は少しずつ変化していきます。しかし、日々のケアの方法を工夫することで、その変化を緩やかにしたり、時には改善につなげたりすることができます。

具体的には、正しい姿勢を保つこと、身体に負担をかけない移乗の方法、適切なポジショニング、そしてお客様の身体をリラックスさせる技術など、多岐にわたります。

大切なのは、一つひとつのケアに「根拠」を持つこと。なぜこの姿勢が良いのか、なぜこの方法で動かすのか──その理由を理解したうえでケアを行うことで、お客様の身体への負担を最小限に抑え、心地よい暮らしを支えることができるのです。

「今のケアで十分」と思わず、「もっと良い方法があるのではないか」と常に考え続ける。その姿勢こそが、重度化予防の第一歩だと私たちは考えています。


毎月、全スタッフ70名が同じ研修を受けています

この研修の講師をお願いしているのは、重度化予防ケアの専門家である香川寛先生です。

香川先生には毎月1泊していただき、「昼の部」「夜の部」「翌朝の部」と1日3回、同じ内容の研修を実施しています。

なぜ同じ研修を3回も行うのか?

それは、介護施設ならではの事情があります。私たちの施設では24時間体制でお客様のケアを行っているため、全員が同じ時間に集まることができません。日勤のスタッフ、夜勤明けのスタッフ、これから夜勤に入るスタッフ──それぞれの勤務時間に合わせて、全員が必ず参加できる体制を整えました。

そしてもうひとつ、大切な理由があります。

それは、誰がケアしても同じ質を届けるためです。

お客様にとって、担当するスタッフによってケアの質が変わってしまうのは不安なことです。Aさんのときは楽だけど、Bさんのときは少し痛い──そんな状況があってはなりません。特養の全スタッフ約70名が同じ知識と技術を身につけることで、どのスタッフがケアしても、お客様に同じ安心感を届けられるようになります。

5月からは毎回およそ25名ずつ参加し、7つのチームに分かれて学んでいます。

テーマ
4月オリエンテーション
5月座位の修正
6月立ち上がり・移乗
7月(感染症のため中止)
8月ポジショニング(仰臥位)
9月ポジショニング(側臥位)
10月HOGUSHI
11月移乗(リフト)
12月座位・車いす

姿勢の整え方から、安全で負担の少ない移乗方法、ベッド上でのポジショニング、身体の緊張をほぐす技術まで──毎月テーマを変えながら、一歩一歩、着実にスキルを積み上げてきました。


研修で大切にしていること

この研修で最も大切にしていること。それは、「なぜ、そうするのか」を理解することです。

「こうしなさい」と言われたからやる、ではありません。なぜその方法が良いのか、なぜその角度なのか、なぜその位置に手を置くのか──その根拠を理解することで、初めて「自分のもの」になります。

香川先生の説明はいつも10分程度。理論をコンパクトに伝えてくださった後、すぐにスタッフ同士で実践に移ります。

「ここに手を置くと、相手はこう感じる」 「この角度だと、身体に力が入ってしまう」 「少し位置をずらすだけで、こんなに楽になる」

スタッフ同士で交互に介護する側・される側を体験します。**自分の身体で体験するから、お客様の気持ちがわかる。これが、この研修の大きな特徴です。

2時間の研修は集中して行われますが、決して堅苦しい雰囲気ではありません。うまくできたときには自然と拍手が起こり、「おお!」「すごい!」という歓声が上がります。時には笑い声も聞こえてきて、とても和やかな雰囲気です。

「難しそう」ではなく「楽しい」──スタッフがそう感じられる研修だからこそ、学んだことを現場で活かそうという意欲につながっています。


スタッフの声をご紹介します

研修後には必ずアンケートを実施しています。寄せられる声はどれも前向きで、スタッフの意識の変化を強く感じます。一部をご紹介します。

「香川先生からは重度化予防だけでなく、介護の楽しさ、プロとは何かを学ばせていただいています。根拠をもとにお話してくださるので、とてもわかりやすいです」

「研修を終えて、『ここはもっとこうしてくれると楽』『この姿勢は苦しい』と言えないお客様への配慮や、寄り添っていける技術をもっと学びたいと思いました」

「実際に自分がポジショニングを受けて体感できたことで、拘縮の方が少しでもリラックスできる環境が作れるということを実感しました。研修内容もわかりやすく、楽しかったです」

「毎回研修に参加するごとに、現場でみんながポジショニングを気をつけて行っていることを実感します。手の置き場や足底をしっかりサポートするなど、すぐに現場で実践できます。目に見えてお客様が変わる様子を見られることは、仕事のモチベーションアップにつながっています」

「何度も実践して、自分のものにしていきたいです」

こうした声を聞くたびに、この研修を始めて本当によかったと感じます。スタッフ一人ひとりが「お客様のために」という想いを持ち、技術を磨こうとしている。その姿勢が、何よりも嬉しいのです。


学んだことを、毎日のケアで実践しています

研修で学んだ知識や技術は、すぐに現場で実践しています。「学んで終わり」ではなく、「学んだことを毎日のケアに活かす」。この積み重ねが、お客様の暮らしを変えていきます。


🔹 福祉用具の積極的な活用

ベッドと車いすの間の移乗には、リフトを使用するようになりました。

以前は、スタッフがお客様の身体を抱えて移乗することもありました。しかしこの方法では、お客様の身体に負担がかかり、緊張や痛みを引き起こすことがあります。リフトを使うことで、お客様は安心して身を任せることができ、スタッフも無理な姿勢をとる必要がなくなりました。

さらに、リフトに乗ったまま5分間ゆっくり過ごす「HOGUSHIの時間」を設けています。リフトのスリングシートに包まれた状態は、まるでハンモックに揺られているような心地よさ。この時間を通じて、お客様の身体の緊張がほぐれ、リラックスした状態でその後のケアに移ることができます。


🔹 車いす・シーティングの見直し

香川先生に提案いただいたMATSUNAGAの「マイチルト リジット3D」という車椅子を導入しました。

参考URL https://www.matsunaga-w.co.jp/products/my-tilt/%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%83%81%e3%83%ab%e3%83%88%e3%83%bb%e3%83%9f%e3%83%8b%ef%bc%93%ef%bd%84

車椅子は「座るための道具」と思われがちですが、実は姿勢を支える大切な役割を担っています。身体に合わない車いすに座り続けると、姿勢が崩れ、疲労や痛みの原因になります。

新しい車椅子は、お一人おひとりの身体に合わせて細かく調整できます。座面の角度、背もたれの傾き、フットレストの高さ──すべてをその方に最適な状態に整えます。さらに、ポジショニングクッションも活用し、座っている時間が「我慢の時間」から「休息の時間」に変わりました。

その結果、お客様が車いすで過ごせる時間が自然と長くなり、離床時間の増加にもつながっています。


🔹 ベッド上のケアを根本から改善

ベッドで過ごす時間のケアも、根本から見直しました。

まず、ベッドマットレスを変更しました。身体を適切に支え、圧力を分散するマットレスを選ぶことで、長時間横になっていても身体への負担が軽減されます。

次に、ポジショニングクッションを導入しました。仰向けのとき、横向きのとき、それぞれの姿勢に合わせてクッションを配置し、身体に緊張を起こさないポジショニングを実施しています。

そして、体位変換の方法も変えました。以前は、スタッフがお客様の身体をつかんで動かしていましたが、今ではグローブやスライディングシートを使用しています。お客様の身体に直接力を加えないことで、緊張や痛みを防ぎ、安心して身を任せていただけるようになりました。


そして、お客様に変化が現れました

研修で学んだことを現場で実践する中で、お客様にも目に見える変化が現れています。これは、スタッフ一人ひとりが「根拠のあるケア」を日々積み重ねてきた結果です。


🔹 言葉が増えた

以前はあまり言葉を発されなかったお客様が、自分から話しかけてくださることが増えました。「おはよう」「ありがとう」といった挨拶はもちろん、昔の思い出を語ってくださったり、スタッフに質問してくださったりする場面も見られるようになりました。

会話がスムーズになり、記憶もはっきりしてきた方もいらっしゃいます。身体がリラックスすることで、心にも余裕が生まれるのかもしれません。

何より、表情が穏やかになったことが印象的です。緊張していた顔がほぐれ、柔らかい笑顔を見せてくださる。その変化は、ご家族にも伝わっています。


🔹 できることが増えた

食事やおやつを自分の手で食べられるようになった方がいらっしゃいます。

これは、姿勢が安定したことが大きな要因です。車いすで姿勢が崩れにくくなり、テーブルに向かって安定した姿勢を保てるようになりました。その結果、自分でスプーンを持ち、口に運ぶことができるようになったのです。

「自分でできる」ということは、お客様にとって大きな喜びです。介助されるのを待つのではなく、自分の意思で、自分のペースで食べられる。その満足感は、表情にも表れています。

また、起きている時間が増え、顔を上げていることが多くなった方もいらっしゃいます。以前はうつむきがちだった方が、周囲を見渡し、スタッフや他のお客様と目を合わせてくださるようになりました。


🔹 よく眠れるようになった

夜間に大声を出されることがあったお客様が、今ではぐっすり眠れるようになりました。

午前中はリラックスして車いすで過ごし、適度に活動する。そして夜は、身体に負担のないポジショニングで、安心して眠りにつく。この生活リズムが整ったことで、夜間の不穏がなくなり、朝までぐっすり眠れるようになったのです。

臥床中、不安そうにベッド柵をぎゅっと握っていた方がいらっしゃいました。その方は今、力が抜けてリラックスした状態で休まれています。握りしめていた手が開いている──それだけで、どれだけ安心されているかが伝わってきます。

ベッド柵にもたれかかるように寝ていた方が、今では身体をまっすぐにして、気持ちよさそうに眠られています。食後は必ず右側臥位をとっていた方が、仰臥位を取り入れることで、より深い眠りを得られるようになりました。

夜勤スタッフから「〇〇さん、最近本当によく眠れていますね」という報告が上がることが増えました。それを聞くたびに、私たちの取り組みが確実にお客様に届いていることを実感します。


🔹 身体の状態が改善した

身体の緊張がほぐれたことで、様々な改善が見られています。

緊張状態が続くと、発汗が多くなり、肌トラブルを起こしやすくなります。ある方は、ケアを見直してから発汗が減り、肌の状態が改善しました。スキンケアだけでは解決しなかった問題が、姿勢とポジショニングの改善で解決したのです。

また、センサーマットが不要になった方もいらっしゃいます。以前は予期せぬ行動があり、安全のためにセンサーマットを使用していましたが、身体がリラックスし、よく眠れるようになったことで、そうした行動がなくなりました。センサーマットがなくなることは、お客様にとっても「見守られている」というプレッシャーから解放されることを意味します。


ケアが変わると、暮らしが変わる

「姿勢を整える」「身体に負担をかけない」「根拠を持ってケアする」

言葉にすると、地味なことに思えるかもしれません。

でも、その積み重ねが──

お客様の笑顔を増やし、 言葉を引き出し、 「自分でできる」を取り戻し、 夜の眠りを深くする。

小さなケアの改善が、お客様の毎日を大きく変えていく。私たちは今、それを実感しています。

全スタッフが同じ知識・技術を身につけ、同じ想いでケアに向き合う。その体制が整ったことで、ほしのさとのケアの質は着実に向上しています。

これからも私たちは、お客様の「心地よい」を追求し続けます。「苦しい」と言えないお客様の声なき声に耳を傾け、一人ひとりに寄り添ったケアを届けていきます。

ご家族の皆様、地域の皆様、そしてこのブログを読んでくださっているすべての方に、私たちの取り組みが少しでも伝われば幸いです。

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